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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2297号 判決 1984年9月19日

第二二九七号事件控訴人

第二〇九四号事件被控訴人

(第一審原告)

西澤芳睦

第二二九七号事件控訴人(第一審原告)

有限会社西芳家具工業

右代表者

西澤芳睦

右両名訴訟代理人

武田芳彦

和田清二

第二〇九四号事件控訴人

第二二九七号事件被控訴人(第一審被告)

右代表者法務大臣

住栄作

右指定代理人

松本克己

外三名

主文

第二〇九四号事件について

原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。

第一審原告西澤芳睦の請求を棄却する。

第二二九七号事件について

本件各控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一審原告西澤芳睦と第一審被告との間では、第一、二審とも同第一審原告の負担とし、第一審原告有限会社西芳家具工業と第一審被告との間では控訴費用を同第一審原告の負担とする。

事実<省略>

理由

一請求原因1から3までの事実は、当事者間に争いがない。

ところで、国税犯則取締法による本件通告は、国税局長又は税務署長(以下「国税局長等」という。)が間接国税に関する犯則事件の調査により犯則の心証を得た場合に、犯則者に通告の旨を履行する資力がないと認められるとき又は情状が懲役刑に処すべきものと思料されるときを除き、罰金相当額等を納付すべき旨を通告するものであつて、犯則者が通告を受けた日から二〇日以内にこれを履行しないときは、検察官に告発の手続をとるべきものとされ、その場合には、公訴の提起により刑事手続において通告の対象となつた犯則事実について審理裁判されるが、犯則者が通告の旨を履行した場合には、同一事件について公訴の提起を受けることがないとされている。国税犯則取締法上、通告に係る金員の納付については、これを強制する手段はなく、通告の旨を履行するか否かは、犯則者の自由意思にまかせられているのであつて、この点からみると、通告処分は、一種の行政処分ではあるが、抗告訴訟の対象とはならないと解するのが相当である。

国税犯則取締法第一四条第一項によれば、国税局長等は、犯則の心証を得たときは通告処分をすべきものとし、犯則事実の客観的存在をその要件とはしていない。しかし、犯則の心証は調査を前提としていることや通告処分の目的、効果から考えると、国税局長等が犯則の心証を得ることがもつともであるという客観的事情が存在することが通告処分の実質的要件であると考えられる。したがつて、通告の時において、調査の結果に照らして犯則の心証を得たことに客観的合理性があれば、犯則事実が存在しなかつたとしても、通告処分は適法というべきであり、通告処分が違法・無効とされるのは、通告の時における判断資料に照らして当該判断に合理的根拠を欠くという極めて例外的な場合に限局されるものと解すべきである。

二そこで、まず、第一審原告らの国家賠償請求について判断する。

長野税務署長が、昭和五一年四月二六日付けで第一審原告会社に対して昭和四六年二月から昭和四九年一〇月までの間のうち四二か月分の物品税を三九四万七九〇〇円とする更正又は決定及び加算税を三九万三一〇〇円とする賦課決定をしたが、関東信越国税不服審判所長の昭和五二年一二月二二日付け裁決では、原処分の課税標準額算出の過程における原価計算の一部に第一審原告ら指摘のような誤りほかの誤りがあつたため、本税四一万四八〇〇円、加算税三万四八〇〇円のみが維持され、本税三五六万一一〇〇円、加算税三五万八三〇〇円が取り消されたこと、本件通告に係るほ脱額のうち裁決で維持されたと認められるものが原判決別表「裁決後の額に対応する額」欄記載のとおり、第一審原告西澤分が二二万二〇〇円、第一番原告会社分が三万二三〇〇円であることは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、第一審被告の請求原因に対する答弁4の(1)及び(2)の事実(このうち、前記当事者間に争いのない部分を除く。)がすべて認められるほか、第一審原告西澤は第一審原告会社の物品税を免れる目的で、昭和四六年一月ころから同年七月ころまでに移出した婚礼セット家具中の和たんすを非課税物品である総桐製と偽り、同年七月ころ以降は、各婚礼セット家具一セットのほかに他の物品を抱き合せて一セットとし、その抱合せ物品の価格を通常の取引価格より高価にして婚礼セット家具の価格を操作し、和たんすの価格が課税最低限度未満になるようにしたこと、第一審原告西澤が本件物品税調査に対して不満や異議を述べるようになつたのは本件通告処分、課税処分(特に、後者)を受けてからであり、長野税務署間税第二部門統括国税調査官福田忠行、同税務署長に面接するなどして不満を訴えたところ、通告の旨を履行しなければ検察官に告発せざるを得ないこと、通告の旨を履行しても課税処分について不服申立てをし、それが容れられればその分の物品税は返還されることを告げられ、当時通告と課税処分の違いを十分理解していなかつた第一審原告西澤は、不服申立てが容れられれば支払つた金員はすべて返還されると思い込み、納付期限経過後の昭和五一年五月一四日通告の旨を履行したこと、昭和五一年四月二六日付けで第一審原告会社に対して長野税務署長がした昭和四六年二月から昭和四九年一〇月までの間のうち四二か月分の物品税を三九四万七九〇〇円とする更正又は決定及び加算税を三九万三一〇〇円とする賦課決定処分は、本件物品税のほ脱に関して関東信越国税局が調査した資料の送付を受け、右資料に基づいてしたものであることが認められ、右認定に反する前記西澤芳睦の原審における本人供述(第一、二回)の一部は前掲各証拠に照らして措信しない。

以上認定の事実によれば、本件通告と課税処分の基礎資料は共通であり、課税処分の対象となつた事実の一部が本件通告に係る犯則事実とされた関係にあることとなり、その課税処分の一部が取り消されたことからすると、これに対応する犯則事実は存在せず、原判決別紙「裁決後の額に対応する額」欄記載の分が存在したものと認めるのが相当である。

しかしながら、更に前掲各証拠を総合すると、関東信越国税局収税官吏は、本件調査においてはすべて第一審原告西澤が記録したメモを基礎として婚礼セット家具の各構成品について材積計算をしたが、その過程において右西澤は第一審原告会社の従業員の意見も聴いていること、製品についての使用材料を従業員が記録している事実はないこと、本件調査の過程において整理たんす及び下駄箱に栃の突板を使用している旨の申出が第一審原告西澤から出された事実はなかつたこと、材積計算書の確認後原価計算書作成までの間に、第一審原告西澤から和たんすの栃の突板使用枚数2.5枚では不足である旨の申出により材積計算上2.5枚としていたのを原価計算上四枚と改めたものであること、原価計算については、当時第一審原告会社の経理を担当していた福嶋税理士の意見として、算定方法を了承する旨の発言があつたことが認められ、右認定に反する<証拠>は前掲各証拠に照らして措信できず、これら認定の事実と前記認定事実とを併せると、長野税務署収税官吏、関東信越国税局収税官吏の調査及び証憑集取の手続はいずれも適法であり、右調査の結果は各種証憑書類のほか第一審原告会社の代表取締役たる第一審原告西澤の供述等に依拠するものであり、特に原価計算についてはその経理担当の福嶋税理士の了承まで得ているものであり、関東信越国税局長は同国税局収税官吏から右調査の報告を受け、本件通告に係る犯則事実の心証を得て適式の手続によつて本件通告を行つたと認められるから、本件通告処分は手続上適法であり、通告時における関東信越国税局長の犯則の心証には合理性があるというべきである。本件通告と共通の資料に基づく課税処分が後に裁決により一部取り消されたため、これに対応する犯則事実が存在しなかつたとせざるを得ないことは前示のとおりであるけれども、<証拠>によれば、第一審原告西澤は審査請求の段階では本件通告前の調査時における供述等をかなりの部分にわたつて翻していることが認められ、一方、本件通告における事前調査及び心証形成の経緯が右のとおりである以上、右課税処分が後に一部取り消されたからといつて、本件通告時における関東信越国税局長の犯則の心証の合理性を動かすことはできない。

第一審原告らは、第一審原告西澤に第一審原告会社の物品税をほ脱する故意はなかつたので本件通告に係る犯則事実は不存在である旨主張するが、前記認定事実によれば、ほ脱の故意があつたことは明らかである。また、長野税務署の収税官吏である福田忠行らの本件通告についての説明内容は前記認定のとおりであるところ、これによれば、その説明や指導に誤りがあつたとすることはできない。

したがつて、本件通告処分には第一審原告ら主張のような違法事由があると認めることはできず、第一審原告らの国家賠償請求は理由がない。

三次に、第一審原告らの不当利得返還請求について判断する。

第一審原告らは、法律上の原因がないという要件につき、まず本件通告が無効であることを主張するけれども、本件通告には何ら違法の点がないこと、特に課税処分が後に一部取り消されたためこれに対応する犯則事実が存在しなかつたとせざるを得ない事情があつても、なおその部分をも含めて本件通告の適法性が失われないことは、右二において詳しく説示したとおりであるから、本件通告を無効とすべき余地はなく、したがつて、第一審原告らの右主張は採用することができない。なお、右の一部取り消された課税処分に対応する犯則事実を除外すれば、原判決別表「裁決後の額に対応する額」欄記載の分が犯則事実として存在したことになるところ、そのほ脱額は、第一審原告西澤分が二六か月で合計二二万二〇〇円、第一審原告会社が五か月で合計三万二三〇〇円であるから、その処断刑たる罰金額を算定すると、第一審原告西澤については一三〇〇円以下、第一審原告会社については二五〇万円以下となる(物品税法第二九条・第四四条第一項第一号・第四七条第一項、刑法第四八条第二項参照)。そうすると、本件通告のうち、一部取り消された課税処分に対応する分は無効とすべきではないかという点を問題にしてみたところで、その対応関係を明らかにすることができないのみならず、関東信越国税局長としては、その分を除外しても、右の処断刑たる罰金額の範囲内で第一審原告らに対して通告すべき罰金相当額を定め得るのであり、その裁量の範囲内である本件罰金相当額等の納付が法律上の原因を欠くということにはならないというべきである。

なお、第一審原告らは、通告の旨を履行するについて錯誤があつたと主張し、第一審原告西澤が、課税処分に対する不服申立てが容れられれば本件通告に従つて納付した金員も返還されると思い込んでいたことは前記認定のとおりであるが、他方、長野税務署間税第二部門統括調査官福田忠行らが通告について第一審原告西澤に説明した内容は、通告と課税処分とは別のものであること、通告の旨を履行するかどうかは第一審原告らの自由な選択にまかされ、これを履行すれば公訴権消滅の効果が生じること、通告に不服であれば国税局長の告発をまつて裁判所で争うことができ、課税に不服であれば不服申立てによつて国税不服審判所で争うことができること、通告についてはこれを履行し、課税処分についてだけ争うこともできるなどであることも既に認定したとおりであるから、右福田忠行の説明や指導に誤りがあつたとはいえず、通告に基づく罰金相当額等の金員の納付について錯誤の理論が適用されるとしても、第一審原告西澤の右の錯誤は動機の錯誤に過ぎないし、納付された金員の全部が法律上の原因を欠くことにならない以上、右の錯誤は行為の結果に影響を及ぼすものではない。

また、第一審原告らは、通告処分に瑕疵がある場合の救済について当審においても種々主張するが、独自の見解であつて、採用できない。

以上のとおりであるから、第一審原告らの不当利得返還請求もまた理由がない。

四以上のとおりであるから、第一審原告らの本訴請求は失当として棄却すべきものである。

よつて、第二〇九四号事件について本件控訴は理由があるから右と異なる原判決の第一審被告敗訴の部分を取り消して第一審原告西澤芳睦の請求を棄却し、第二二九七号事件について本件控訴は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については、第一審原告西澤芳睦と第一審被告との間では民事訴訟法第九六条及び第八九条を、第一審原告有限会社西芳家具工業と第一審被告との間では同法第九五条及び第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(賀集唱 梅田晴亮 上野精)

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